六本木周辺ガイド

明日に向かって - 東京一ギラギラした街がまたお化粧直し

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六本木周辺ガイド

東京の享楽主義を体験するならここで決まり。思い切り騒いで吐くまで飲む、大音量の音楽がかかる場所という評判が半世紀にわたって築き上げられた結果、六本木は自分の娘を近づけたくない街になっている。

それゆえ、東京をリードする不動産業界の大物、森稔が数千億円を投じて、この騒がしい場所のすぐ近くの高所得者層向けの大規模な都市開発計画を1995年に発表したときはかなりの人が驚いた。六本木ヒルズは2003年4月に華々しくオープンしたが、まだその人気は衰えていない。公式発表によれば、ウィークデイは毎日10万人が訪れ、週末の来客数は30万人にのぼるという。この複合施設は「都市の中の都市」として設計され、カフェやレストラン、店舗が200店、コンランの設計によるサービスアパートメントが数百室、大きな美術館、9スクリーンのTOHOシネマズ、〈テレビ朝日〉、複数の公園、それに豪華なグランドハイアット 東京がある。生活の贅沢な側面を強調する六本木ヒルズとそれまでの六本木の唯一の共通点は、その外国にいるかのような感覚である。伝統的な日本を探そうにも、ここではとても見つけることができないのだ。

地下鉄日比谷線と大江戸線が入口に直結しているので、六本木ヒルズにたどりつくのは簡単。しかし、オフィシャルマップを手にしていても、この複合施設の中で道に迷わずにいるのは不可能に近い。通路やエスカレーターやフロア構造が非常に入り組んだ設計なので、(ラスベガスのカジノホテル〈べラージオ〉も設計した)建築士たちは訪れる人の方向感覚を失わせるよう指示されていたのかとも思いかねないくらいだ。中央には、森の名を冠した54階建てのタワーがある。その頂上は兜を模しているものと思われるが、中には、世界級の〈森美術館〉や眺望デッキ〈東京シティビュー〉(どちらも52階)、財布の中身を吸い尽くす会員制クラブがある。タワー正面には、ルイーズ・ブルジョアによる、巨大な蜘蛛の彫刻「ママン」が穏やかに身をかがめている。この複合施設について、さらに詳しく知るにはホームページwww.roppongihills.comを参照すること。

森の小都市の出現により、街のイメージはいきなり高級になり、その成功ぶりは誰の目にも明白だった。2007年3月、六本木ヒルズの近くにライバル複合施設がオープンしたのである。〈東京ミッドタウン〉は、目立つタワーや豪華なホテル、美術館といった森のイメージを忠実に再現しているが、この中で道に迷うことはない。〈東京ミッドタウン〉は街のバランスを新しい六本木とその富裕な常連のほうに傾けるように思われる。

しかし、今のところは、高所得者層が消費を楽しむ場所からほんの数ブロック離れたところで性的な快楽を追求する人々も健在である。肉体の饗宴を体験するには、六本木駅の近くの大きな交差点に向かうこと。駅の出口3から六本木通りに沿って右に向かえば、ピンクと白のストライプの日よけですぐに分かる、洋菓子店〈アマンド〉の正面に大勢の人がうろついているのが見える。ここは昔からの待ち合わせに使われていて、ストリップ場やカラオケの大勢の呼びこみに最初に出会う場所だ。

〈アマンド〉のすぐ隣の道は、崩れかけたビルやときどき営業しているレストランがある寂れた通りで、複合施設六本木ヒルズに続く。だが、その横の、遠くに東京タワーが輝く本通りに入れば、そこは活気に満ちていて、露店商人やストリップの呼びこみ、派手なバーの看板が雰囲気をかもしだしている。週末のバーやクラブは皆、酔い加減もさまざまな、パーティー好きの人々でごった返す。いちばん有名で盛り上がるバーは〈GASPANIC〉で、大音量の音楽を好み、客をへべれけにする伝説のナンパ天国である。とはいえ、この本通りを外れた脇道を行っても、同様の店がいくらでも見つかる。もっと大きくて、少しばかり洗練されているナイトクラブには〈Alife〉があるが、ほかにも豊富な選択肢がある。

夜遊びがお気に召さなくても、六本木には料理を楽しめる場所も数多い。ミシュランの星こそないが、この街には外国人がさまざまな外国の味をもちこんでおり、料理の多彩さにおいては東京一である。  今日の六本木にはそのルーツがほとんど表れていない。17世紀まで、この地区は渋谷の住民の通り道に過ぎなかったが、1626年に状況は一変した。将軍秀忠が六本木を妻の埋葬地に選んだのである。妻の葬儀をとりしきった四人の僧に感謝した秀忠は、気前よく報酬をはずんだ。その金で、四人全員がこの地区に新しい寺を建立し、スピリチュアルな地という、六本木の最初のイメージを作った。

18世紀中ごろ、この地区の公式人口は454人だった。現代の六本木が姿を現しだすのは19世紀後半になってからである。政府が帝国軍師団の駐屯地をここに変更し、これによって、六本木と軍隊の長いつきあいが始まることになった。第2次世界大戦後、アメリカ占領軍にも基地として選ばれた六本木は、軍人のさまざまな欲望を満たして発展していく。

現代美術の愛好家は複合施設を堪能するだろうが、ほかに芸術を楽しめる場所はほとんどなく、まばらに点在している。その数少ない例を挙げると、六本木ヒルズに続く坂道に面した古い建物には〈Ota Fine Arts〉 などの小さな画廊が集まっている。また、そこから遠く離れたところには、小さな私立美術館が2軒ある。高級ホテルの中にあるこの美術館は、赤坂見附駅に近い〈ニューオータニ美術館〉と六本木一丁目駅に近い〈大倉集古館〉だ。

六本木交差点の南東にそびえる東京タワーは、もっと高くて眺めのいい建物にはかなわずとも、まだ東京のシンボルである。記念写真をとるのに最適な場所は隣接する芝公園で、東京タワーと隣の増上寺を一緒に写せば、古典的な1枚になる。夏には、芝公園にいくつかあるプールが一般に開放され、歩いていける距離にも、遊び場などのアトラクションがある。東京タワーの北には〈NHK放送博物館〉があり、日本のラジオやテレビの歴史を紹介している。

六本木交差点を外苑東通りまで反対側に進むと、乃木神社がある。これは乃木希典将軍の霊を祭ったもので、乃木の死は過去の日本において儀式的な自殺が果たしていた重要な役割を示す一例である。

西麻布、麻布十番、広尾

六本木ヒルズがオープンする以前、西麻布と六本木には雲泥の差があり、洗練された人々は、おしゃれなバーやレストランやクラブでいっぱいの西麻布に集まっていた。六本木と同じく、西麻布も日没に明るくなるが、六本木と違って、ここにはいつも静かな雰囲気が漂っており、デートや接客にぴったりの場所である。西麻布には駅がないため、アクセスは六本木駅からになる。出口1から六本木通りを渋谷に向かって歩き、アイスクリーム店〈Hobson’s〉が向かいに見える交差点についたら、そこが西麻布の中心だ。

その東にある麻布十番はやはりレストランの豊富な街だが、より伝統的な感じがする。麻布十番は地下鉄南北線と大江戸線の駅があり、太鼓の音と盆踊りが特徴的な、毎年8月の麻布十番納涼まつりでにぎわう。また、温泉や大型輸入食品店〈日進ワールドデリカテッセン〉もある。さらに、この地区には、歩いていける距離ではないのだが、たくさんの大使館が近くにあるおかげで外国人が安心して生活できる広尾がある。広尾の店やカフェやレストランには西洋の色濃い影響が見られ、そのほとんどに英語を話すスタッフがいる。

この文章はTime Out Tokyo Guide (2007年版)の英語原稿を翻訳・編集したものです。

※掲載されている情報は公開当時のものです。

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