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伝説、野外フェスの原点と言われ続けているウッドストック。いくらライブが好きだと言っても、この時代に生まれていない私には遠い過去のひとつに過ぎないものです。
ポスターからしてトリップ中。
ベトナム戦争、ヒッピー、サイケデリック・アート、ボブ・ディラン、ジャニス・ジョプリン、グレイトフル・デッド。リアルタイムで体験して、一緒に歳を取ってきたからこそ抱ける思い入れもありません。だけど『ウッドストックがやってくる!』の中には、私もよく知っている光景がたくさんありました。田舎に大集合、土砂降り、泥んこ、終演後のゴミ、そこにいるだけで幸せそうな顔をしている人々……。映画の人たちは飛んじゃってるんですけどね。まるでフジロックなんです。そのせいか、きちんと入れ込んで観ることができました。
来場者50万人近く、人!人!人!の写真だけしか見たことがなかったウッドストックは、本当にヘリコプターに乗った若造とチョコレートミルクのおかげであの地にやってくることになったのだとしたら、素敵です。寂れた田舎に冴えない毎日。そこに舞い降りた裸ベスト。つぶ子がつぶやきまくっていた“裸ベスト”こと、オーガナイザーのマイケル・ラングの若さに、私はまず驚きました。ここの下の画像の真ん中にいるカーリーヘアの人です。1944年生まれだそうなので、当時25歳でしょうか。「こいつ、何かやるな」と一目で思えるキラキラの目をしているんです。ああいう人なら付いていきます。反対に、主人公のモーテルの息子、エリオットは34歳には見えないくらいの幼さで、比較的いつでもかっこ悪い。とにかくパンツの裾が短い。彼を演じるディミトリ・マーティンがスタンダップ・コメディアンだというのを考えるとおかしいです。他の出演者も見応えある人が揃っているところもポイントです。エリオットの両親はもちろん、特にビリー役のエミール・ハーシュがいいですね。ヒーローよりハンサムより、変な人役の時に出る味がいいです。あとはシェイクスピア物の印象が強かったリーヴ・シュレイバーの女性の姿。元々ごつめの人なのに薄い生地のワンピースにブロンド巻き毛姿で、だけどメチャクチャはまってるんです。そんな濃い人たちが画面に出ては消え、気づくと2時間が終わっている、そんな映画です。
伝説となるフェスを地元に呼んでしまったモーテルが拠点なので、悶絶のラインナップだったこのフェスの肝心なステージはまったく出てきません。遠くでギター音が聴こえて「あー、始まったね」、やっとのことでフェス会場に入ったのにステージに近づくことなく寄り道。ぼんやりしてます。だけど、そんなことは妄想できるからいいのです。モーテルの庭に溢れていた人、どんな人たちが観に来て、どんな会話をしたのか、ステージの昼は夜は朝はこうだったというのを細かく観察できれば満足なのです。私が一番好きなのは、のどかな牧場とカオスなフェス会場がオーバーラップするシーン。ちらっと登場する小物や流れる楽曲が1969年当時には存在しなかったものだという小話があちこちから出ていますが、自分が知っているフェス空間を思い出して、不思議とそういうことには目をつぶれます。
チケットは、前売りで18ドル、3日券が24ドルだったそうです。当時の物価とアメリカのフェスの相場を考えると高い方ですね。もし1969年のアメリカに生きていたら、どうしていたでしょう。ラインナップだけでは、私はパスしていたと思います。ただし「一大事だ!」というミーハー根性で行ってたでしょうけどね。
公開は今週末、ヒューマントラスト渋谷で観ることができます。フェスシーズンまであと半年。すでに指折り数えたいモードの方は、先に映画を観ておくことをオススメします。
(おまけ)
1月に観るべき映画で紹介されていた『ソウル・キッチン』の編集者、アンドリュー・バードさんが気になりました。当たり前に別人でしたけど。
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